ゼルダシリーズの歴史からブレスオブザワイルドを語る

 ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド(以下、BotW)は歴史に名を残す名作になる。わたしはそう確信している。

 初代から31年、時のオカリナから19年、偉大なる先代たちに負けない仕上がりになっている。

 そうなるとやはり気になるのは、ここまで任天堂はどうやって行き着いたのか?ということだ。ゼルダが歩んできた30年の歴史をたどりながら分析していこうと思う。

 

初代ゼルダオープンワールドである

 初代ゼルダの伝説の冒頭を覚えているだろうか。

 何の指示も無く世界に放り出されたリンク。とりあえず近くの洞窟に入ると老人にこう言われる。
「ヒトリデハキケンジャ コレヲ サズケヨウ」
 そういって剣をくれる。

……たったそれだけだ。説明も指示もない。そそくさと洞窟から出る。
「ここからお前は勇者だ。さあ世界に旅立て!」

 
 冒頭だけ見ても、初代ゼルダの構造はオープンワールドゲームによく似ている。あれやこれやと要求や指示をすることなく、プレイヤーの目の前にいきなり広大フィールドを出す。マップを隅から隅まで探索するもよし、隠し部屋を探すもよし、敵と戦うもよし、ダンジョンを攻略するもよし......

 もちろんゴールは存在するのでそのためにやらなければならないことはたくさんある。しかし、このゲームはそれを教えてくれないし、強制もしない。

 この懐の深さが初代ゼルダが名作と言われる所以なのだ。

 

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 BotWのインタビューで開発者が口々に言う「原点回帰」はまさにこの点である。昨今のオープンワールドブームに乗っかろうと思ったわけでは決してない。今作はゼルダシリーズ行き着くべき到達点なのだ。

 

時のオカリナ 2Dから3Dへ

 時のオカリナがゲーム業界やプレイヤーにもたらした衝撃は、もはや語る必要はないだろう。

 任天堂は2Dから次のステップ、3Dに突入した。それによって開発環境の激変し、開発難易度も急上昇した。このスーパーファミンからNINTENDO64への移行時期の過酷さは素人がおっかなびっくり語っていいものではない。

 しかし、そんな中でも時のオカリナの開発陣は活き活きしていた。

 

滝澤 『ゼルダ』のものづくりというのは、もともと完璧な設計図があるんじゃなくて、ある土台を元に、みんなでキャッチボールをしながらかぶせ合いするようなことが基本だったような気がします。

 

春花 そうですよね。つねにみんなとしゃべりながら、ネタをかぶせ合って、ものをつくっていましたし。たとえばディレクターに対しても「決めてください」というのではなく、“いっしょに決めにかかる”みたいな感じでした。

 

岩田 つまり、指示をする人と指示される人の構造ではなかったんですね。

 

春花 そうなんです。立場やキャリアに関係なく、「こっちのほうがいいと思います」とか、自然とみんなで言い合えた現場でした。その傾向は、とくに開発の終盤に顕著になりました。

 

宮永 終いには「そこは僕がやります」とか。

 

春花 そう、気がついたことはそれぞれが勝手にやっていたんですよね。

 

 インタビューから、時のオカリナの特異な開発環境が見えてくる。それは、やるべき仕事を分担するのではなく、スタッフ全員でクオリティアップを図っていくということだ。

 

 任天堂は昔から、良く言えば自由に、悪く言えば行き当たりばったりなこの開発スタイルを貫いてきた。成功は多くあれど、失敗もあった。そんな中で時のオカリナの時は、この方法が完璧に機能した。

 例えばキャラクターならば、デザイン、モーション、テキスト、声、テーマ曲等々......各担当スタッフがひとつのキャラクターイメージを共有し、それを実現するためのアイデアを全員で詰めていく。”ネタのかぶせ合い”によってだんだんとキャラが立っていく。限られた人間の頭の中にあるイメージを具現化するのではなく、全員でイメージを固めていくのだ。

 BotWは開発環境だけで言えば、時のオカリナ極めて近い。これについては後述する。

 (蛇足だが、宮本茂の「ゲームは2度作ると良くなる」という言葉はこういう経験からきたものかもしれない)

 

風のタクト 広さと密度の両立

 インタビューで青沼氏がたびたび口にしているので知っている人も多いと思うが、BotWでやりたかったことは、風のタクトの時に一度挑戦しているのだ。

 そのやりたかったこととは、言うまでもなくオープンワールドだ。移動中にロードがはさまれることなく世界がどこまでも続いている......それを実現するために風のタクトでは広い海を用意し、島という要素を散りばめていった。

  しかし、広さを実現するためのアイデアが先行してしまったために風のタクトはもう1つの大事な密度を追求出来ていない。

 

 ここで再び時のオカリナを取り上げる。

 時のオカリナハイラル平原のサイズ感は絶妙だ。

  目的地に行くまでにかかる時間がストレスを感じないレベルで長く設定されており、広さを演出することと、利便性の両立に見事成功している。また、フィールドの広さに慣れてくる後半には、ワープポイントを登場させることで、移動にストレスを感じない工夫が施されている。

  この「目的地に行くまでにかかる時間と、その道中のフィールドの遊びの密度のバランス」を時のオカリナはわきまえていた。

 

 一方、風のタクトはどうだろうか。自分はその点の配慮が欠けていたように思う。

 全体の密度のバランスをみつつ、フィールドの広さを設定しなければならないところを、広さを先に設定してしまったように感じる。全てが全て海という巨大なフィールドで繋がっている本作において、この作る順序の違いは深刻である。

 結果、風のタクトは移動が非常に退屈なゲームとなった。これは、馬を走らせるためにハイラル平原を作った時のオカリナと対極の関係にある。

  また、海を題材にする以上、主要な遊びが島という限られた空間に集中してしまい、密度のバランスをとるのが難しい、という根本的な問題もある。

 

 風のタクトを例えるならば、最初に大きな紙を選んでしまい、時間が足りず空白がたくさんできてしまった絵、といったところか。部分的には評価できるが、全体を見ると大きな問題を抱えていることが分かる。

 目指していた方向性で言えば、風のタクトがBotWが一番近い。

 

下の動画の19:58あたりから青沼氏がオープンワールドに関して語っており、風のタクトを例に挙げている

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スカイウォードソード 分担と全体のバランス

  今回の記事を書くにあたり、スカイウォードソード(以下、スカウォ)の社長が訊くを読んだのだが、BotWを語るうえで最も重要なタイトルはスカウォである、と確信した。ブレスオブザワイルドはスカイウォードソードのリベンジである、最初はこのタイトルにしようかと思ったくらいだ。

 

 そう思った理由は2つある。ひとつは、再利用されたアイデアが複数あること。メニュー画面を開かないアイテム選択方法、のろし、パラショール(BotWはパラセール)、ダウジング等。

 もうひとつは、スカウォの開発スタイルが、BotWのそれの反面教師になっていることだ。

 前者は列挙するだけなので、ここでは後者について詳しく書いていく。

 社長が訊くを読めば嫌でも分かってくることだが、スカウォは大きなチームが4つあった。空、森、火山、砂漠。そして、これら全体のバランスをディレクターやプロデューサーが監修するという開発体制をとっていた。公式で”濃密ゼルダ”と称したり、開発期間、開発者の人数が任天堂最大規模なのを自慢するぐらいスカウォはボリューミーなゲームだった。だから、この開発スタイルは妥当といえる。

 しかし、スカウォよりボリュームが多いBotWでは、この開発スタイルはとられていない。なぜか?

 スカウォをプレイした人なら分かると思うが、このゲーム、後半の面倒くささが半端ではない。サイレンを代表する収集ゲームの連続...ダンジョンやアクション系のミッションは後半につれて少なくなっていき、同じようなことばかりが連続でプレイヤーに課せられていく。

 原因はいろいろとあると思う。だが敢えて言及するならば、チームをはっきりと分けたこの開発スタイルに最大の原因があると私は考える。

 個々のチームのアイデアは素晴らしいのに、それを全体として見て、バランスをとることに労力を割けていなかったのだ。少なくとも、スカウォの規模でディレクターやプロデューサーなどの限られた人間だけでバランスをとることは、無理だったといえる。

 通しで全体を見る機会があれば、このようなバランスの悪さは回避できた

 

 ここでようやくBotWに到達する。

 

 ブレスオブザワイルド 開発環境の素晴らしさ

  ゲームの出来についても語りたいことは山ほどあるが、それはここでは止めておく。どのようにしてこのゲームが出来上がったのか、この点について語っていく。

 ここまで初代、時のオカリナ風のタクトスカイウォードソードを振り返ってきたが、ゼルダシリーズの中で特にこの4つから、BotWは学んだ部分が非常に多い。

 

 今作を代表する広い世界について、インタビューで判明した開発の順序はこうなっている。

  1. 全体の大きさと重要な場所の位置関係を決める
  2. 簡単な地形のデータを作成する
  3. そのマップをやりたいシチュエーションや道の指定で埋めていき、各デザイナーがマップを作成していく
  4. 疎と密のバランスをとっていく

  順番に説明していく。まず1の段階は、藤林ディレクターがインタビューで語っていた、距離感を計るために京都の地形を使ったこと。ここから分かるように、それぞれの場所同士の距離、行くのにかかる時間についてはかなり重要視していた。外野の想像にしかならないが、これは風のタクトの反省が十分に生きた結果だと思う。

 移動の退屈感は様々なゼルダ作品に見られる問題点ではあったが、BotWはフィールドを探索することを主軸に置くことで、見事のこの問題を解消した。

 2は言及することもないので、次は3について。全体が見えている、大きさが分かっている状態で3の工程に進むのは、非常に効率が良く、失敗しにくい。スカウォのそれぞれのチームが、アイデアをマップに採用する方式とは段違いだ。

 また同様に4も、同じ人間(とは言っても上の人間だけでなく、かなり大人数)が見ているため、バランスがとりやすく、アイデアかぶりもなく、たとえ同じアイデアでもマップに適度に散りばめることでプレイヤーの飽きも生じにくい。さらに言うならば、アイデアとアイデアが思わぬ相乗効果を生み出し、それがさらに新しい遊びにつながっていく。これはゲームだけの話ではなく、人間も同様に影響し合い、インスピレーションを生じさせることにつながる。

    ここがまさに時のオカリナに通じる部分だ。

 

堂田 プランナーが自身の担当範囲を持っているのと一緒で、プログラマーも担当者しか知らないことが多いんです。例えばリンクは崖に登れますけど、プログラマーのこだわりで動くものにもへばりつけるようにつくってあるんですね。でも、多くのプランナーはそのことに気が付いていなかったんです。ですので、そういうことをプレゼンするんですよ。「こんなネタがあるけど欲しい人いますか?」って。

 

滝澤 何回か営業大会がありました。

 

一同 (笑)

 

――そのへばりつく動作はどうなったんですか?

 

堂田 イワロックなど大きな敵に登って倒すという遊びになりました。

 

藤林 敵をつくっているチームが技術をもらっていきました(笑)。

 

堂田 物に貼り付けて飛ばせるオクタ風船とかもそうでした。「風船で物を浮かばせることができますよ」とプレゼンをしまして。「それはいろんなことが崩壊しない?」とも言われたんですけど、最終的にはああいう形で入りました。

 

ニンテンドードリーム 2017年5月号 vol.277 P79

 

 微妙に形こそ違えど、これは間違いなく時のオカリナのときのネタのかぶせあいだ。

 

 結論としては、開発環境を全てオープンにしたことによって、広さと密度のバランスがとりやすくなり、さらに”掛け算の遊び”という今作のコンセプトも生まれた。スタッフ全員で通しでプレイすること、アイデア掲示板のような仕組み、クラウドのマップ上に貼ることで、全員が見ることが出来る3D付箋など、こういった開発環境のオープン化によって今作は誕生したといえる。

 

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上の画像はスーパーマリオ3Dワールド開発時のアイデア付箋の数々(https://www.nintendo.co.jp/wiiu/interview/ardj/vol1/index.html#slide001

 

 近年はゲームの規模が非常に大きくなっており、全体を把握するのが難しくなっている。個々人が何の作業をやっているのか、全体のバランスを見れていないゲームも少なくない。もちろん任天堂も例外ではない。ゼルダシリーズは特に開発規模が大きく、この問題によく悩まされている。

 そのゼルダ開発チームが、ようやく未来に継承できるような開発スタイルを作り出すことに成功したことは、喜ばしい限りで、そういう意味でもBotWは神ゲーだとわたしは思う。

 時のオカリナはゲームとしての完成度が非常に高かったが、開発スタイルに関してはかなり特異で、他のゲーム会社や、任天堂自身も真似できるようなものではなかったが、BotWのそれは間違いなく、真似していいものだ。

 

 少々脱線するが、わたしは、大手ゲーム会社には”根”を作る責任があるように感じる。

 スーパーマリオブラザーズで2Dアクションに、スーパーマリオ64時のオカリナで3Dゲームに、DSで2画面に、Wii体感ゲームに可能性を感じたように、大手ゲーム会社には、先導するリーダー的存在であってほしいと思う。インディーズに金を渡すだけではなく、彼らに可能性を感じさせるタイトルをぜひ作って欲しいのだ。

 しつこくなるが、そういう意味でもゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド神ゲーである。

 

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